Opinion

I. 鎌倉ライブデモンストレーション最近の特徴と、それにまつわるdebate

(1) 公式語として英語を用いる

* Pro:
日本では長年に渡って学校教育の中で英語が第一外国語として教育されているにもかかわらず日本人の英語会話力は世界の中でも一番低いとされる。この原因の一つは生活や仕事の中で英語と接する機会が少ないことである。次の世代の医師に対する英会話学習の動機付けのために、英語を用いてライブデモンストレーションを行うことが重要である。また、これにより外国特にアジアの人々のより容易な参加を期待できる。何よりも次の時代に向けた積極的な方針である。

* Con:
英語で行えば多くの人々は自由に発言することが困難であり、またコメディカルはじめ多くの人々にとっては内容を理解することも困難である。何より十分なコミュニケーションを自ら放棄するものである。ライブデモンストレーションは英語教育の場ではなく、参加者皆がPCI(Percutaneous Coronary Intervention)の一つのやり方、それに対する疑問や見解に触発され、翻っては患者にとってより良い医療を提供していこうという試みである。

(2) 経橈骨動脈冠動脈インターベンション(TRI)に限定したライブデモンストレーションである

* Pro:
TRIが患者にとって少なくとも短期的には優れた医療を提供できるのは事実である。しかしながら、未だTRIの普及は十分とは言えない。また、世間にはTRIの限界に対する多くの偏見が存在する。このような状況においてTRIの多くの経験を有する湘南鎌倉総合病院 循環器科がTRIをテーマとしてライブデモンストレーションを行うのは当然である。そして、TRIをテーマとすることで鎌倉ライブデモンストレーションを特徴付けることが出来る。

* Con:
現実のPCIの世界ではTRIで治療を行える症例は多くて全体の80%程度である。しかも通常の病院ではTRIによる治療は50%以下である。PCIのライブデモンストレーションである以上はTRI以外の色々な問題についてもライブデモンストレーションで示すべきである。

(3) 基本的に術者が齋藤 滋一人である

* Pro:
齋藤 滋は世界で活躍する有名なPTCA術者である(自分で書いていて面はゆい気持ちです、すみません。あくまでも論点を明白にするためです)。またTRIの世界では創始者であるKiemeneijも認める術者である。TRIの教育のためにはそのような術者がライブデモンストレーションを示すことは当然である。また、他の病院の術者がPTCAを湘南鎌倉総合病院で行うのは条件的にも不利であり、また色々と面倒な問題が発生する可能性がある。

* Con:
はっきり言って齋藤 滋の手技はもう見飽きた。初心者を含め、色々な術者の手技を見た方が勉強になる。

(4) 基本的に中継サイトが湘南鎌倉総合病院心カテ室のみである

* Pro:
そんなことは無い。これまでにもオーストラリアや中国からもライブデモンストレーションを飛ばしてきた。しかし、いくつもの会場からライブデモンストレーションを飛ばすのはコストや運営面で障害が大きい。それよりも一つのカテ室から内容の充実したライブデモンストレーションを放映する方が良い。

* Con:
多くのカテ室からライブデモンストレーションを行えば色々なスタイルのライブデモンストレーションを一度に見ることが出来る。

(5) 壇上に座る人々のメンバーが固定されている

* Pro:
世の中には付き合いもあり、また協賛メーカーよりの依頼もあり、ある程度メンバーが固定されてしまうのは当然である。また、そのように固定したメンバーであればこそ気楽に意見を述べることが出来、参加者を含めた議論の種を提供できる。

* Con:
もっと若い人々、あるいはいわゆるSilent Majorityを壇上に登場させるべきだ。そうすることによって参加者が真に知りたいことを議論することが出来る。

(6) 症例数が比較的多い

* Pro:
限られた時間内で色々な症例を提示するためには一例にかける時間を短くして多くの症例を提示するしかない。もともとTRIの特徴の一つはすばやいPTCAを行える点にあり、その特徴とも合致する。

* Con:
症例数が多いと、どうしても流されるだけとなりPTCAの手技などについての十分な議論を行うことが不可能となり、単なるショーを見ているのと一緒である。一例一例十分に議論を行い、またその議論の根拠となるデータを示すことがライブデモンストレーションの本質である。

(7) ただ症例を見せるのみで科学が無い

実はある先生から「昨年の鎌倉ライブのような陳腐なライブを今後も続けるのであれば、若い医師たちの心をつかむことは困難です。理念やポリシーが貧弱です。バルーンで拡張したらあとはステント、というだけでは芸がなさ過ぎます。多数の聴衆は退屈していました。インターベンションを職人芸のように見せてはいけません。明確な理念のもとに科学とセンスが展開されなければなりません。」という貴重なご意見を個人的に頂きました (注:この議論については個人的に従来非常に興味を持っており、これまでも関連した内容を日本心血管インターベンション学会におけるディベートなどでも取り上げてきました。資料を添付しました) 。

* Pro:
臨床医学において科学とは何でしょうか? PCIにおける科学とは何でしょうか? 一つの見方としては汎用化された技術、誰でもが行いえる次元に技術を転嫁していく。というのも科学であり、また実験的な道具を用いて問題を提起していくのも科学である。あるいは臨床試験の結果から導き出されるものも科学である。しかし、何れにしてもPCIにおいては治療が出来るか否か、が全ての前提である。翻って言えば、僕自身がFacultyとして長年参加し、1999年には当院から2時間に渡るライブデモンストレーション放映を行ったTCT、そこでは一症例やるごとにそれ以上の議論が展開され、はたまた種々のデータが提示される。しかし、本当にそれが科学であろうか? 僕にとっては単なるショーの色付けにしか見えない。科学を語るためには、それを上回る膨大なPCIの実際がまずは示されなければならない。そうでなければそのモ科学モは机上の空論に終わってしまう。

* Con:
所詮医師個人の技量というのは有限なものであり、永続性が無く、しかも汎用性が無い。いくら職人芸を提示しても他の医師にそれが出来ねば何の意味があろうか? 医学において重要なのは何人かの呪術師ではなく、永続的な真理に基づいて医学を実践できる医師である。その観念無くしてただ技術のみを見せても聴衆である多数の医師にとっては何の足しにもならない。本当に必要なのは議論、データに基づいた理論展開、そして基礎科学に基づいた新たな臨床医学の試み(PCIの分野で言えば、例えばBrachytherapy、Drug-elluting stentなど)が展開されねばならない。



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